Special 2025.06.20 UP 【Hollywood Report】続報:MPCモントリオールにて、スタジオ資産の売却オークションが開催される 鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター オークションサイトより 〇はじめに 3月6日の本欄で「VFX大手MPC世界9カ所の全拠点を閉鎖 1万人以上が解雇へ」、そして5月12日の本欄で、「続報:The Millスタジオ資産の売却オークションが開催される」というニュースをお届けしたが、これらに関連して続報である。 6月17日と18日、カナダのモントリオールにて、MPCモントリオールとMikros Animationのスタジオ施設と機材のオークションが開催された。 先のThe Mill LAにおけるオークションと同様、これらのスタジオのオフィス施設や機材/備品は旧テクニカラーの資産であるため、一連の破産手続きに関連して、これらを売却して現金化し、債権者に分配するためのオークションである。 〇オフィス施設や機材のオークション オークション専門会社のサイトでは、下記のような告知がなされていた。 「一覧にある500点以上の品は、カナダにおける操業停止に伴い、裁判所による管財の下、最も高値をつけた入札者に売却されます。全品売却必須。オンラインのみ/レジスターはコチラ」とある。 競売に掛けられる品々の写真を見渡してみると、海外のどのスタジオでも日常的に見かける共通アイテムばかりである。 画像:ズラリと並ぶモニター、そして壁には過去に手掛けた映画作品のポスター(オークションサイトより) 画像:大作のVFXを支えた、ワークステーションの数々(オークションサイトより) 画像:MPCモントリオールが手掛けた作品群で使用されたモニター(オークションサイトより) 〇そもそも:MPCの歴史とは MPC(本社:ロンドン)は世界9か所に拠点を構えていたVFXスタジオで、長い歴史を誇っていた。そのルーツは1970年に遡るが、設立当初は未だ視覚効果の専門会社でなく、テレビコマーシャルのスタジオとしてスタートしたらしい。 そこからビデオ・ポストプロダクションとなり、1984年頃から段階的にCGIやVFXを導入、コマーシャル分野で頭角を現していった。その後90年代に映画のVFXに参入し、2000年頃からロンドンのスタジオを拡大。この拡大には、「ハリーポッター・シリーズ」に代表されるイギリス発のフランチャイズ作品が、大きく後押ししていた。また、それまでは独立系企業だったが、2004年にテクニカラーに買収され、傘下に入った。 2007年に、当時ハリウッド映画産業向けのTAXクレジット(税優遇制度)を強化し始めたカナダのブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーに、映画VFX制作の国外拠点をオープン(後に2019年閉鎖)。 2008年にはロサンゼルスのサンタモニカに、コマーシャル分野に特化したVFXスタジオをオープンし、スーパーボウルなどの大規模予算のCM作品を手掛けた。このサンタモニカのスタジオは、後にカルバーシティへ移転、そして広告部門は同じく傘下のThe Millと統合された。 2010年にはインドのバンガロールに映画向けVFXスタジオをオープン、2011年にはニューヨークにコマーシャル分野とポストプロダクション用のスタジオをオープンするなど、海外拠点を増やしていった。 この頃、カナダのケベック州は前述のブリティッシュ・コロンビア州に対抗する形で、更にアグレッシブなTAXクレジットを打ち出していた。MPCはこの恩恵にあやかるべく、2013年にモントリオールのスタジオをオープンした。 モントリオールのスタジオは、Tax Creditの恩恵を最大限に生かし、数々のハリウッド映画の受注に成功。特に、実写版『ジャングル・ブック』(2016)、実写版『ライオン・キング』(2019) 、実写版『ライオン・キング:ムファサ』(2024)等の、VFXワークに大人数を必要とする、いわゆる”超実写版”作品群に大きく貢献した。 〇モントリオールでのオークション、SNSでの反応 読者の皆様も既にご存知のように、MPCの閉鎖は親会社であるテクニカラーの過去数年来の破綻の影響によるもので、MPC及び傘下のスタジオの経営自体に直接的な要因があった訳ではない。 今回のモントリオールでのオークションに関して、SNSでは様々な声が見られた。 ・MPCモントリオールは、ワールドクラスのVFXを生み出してきたのに、残念だ。 ・VFX関係者やアニメーターにとって、「夢の職場」だったのに。 ・とても悲しい。 ・今回の出来事は、ショックだ。 という書き込みもあれば、中には、 ・なんてこったい!これって、AIのせい? という「…ちょっと違うんですけど」とツッコミを入れたくなるような書き込みも見受けられた(笑) 〇続:その後の進展 先日、The Millが新会社Arc Creativeとしてかろうじて継続されるニュースは既にお伝えしたが、少し明るいニュースがある。 親会社テクニカラーの破綻による影響を受け、今回スタジオ資産がオークションで売却されたMikros Animationだが、RodeoFX傘下で再出発する事が、3月末にアナウンスされたようだ。 また、こちらはフランス国内に限った話であるが、MPCとThe Millのパリ拠点を、翻訳とAIテクノロジー・ビジネス企業TransPerfectが買収し、約120名の人材が引き続き雇用されるという報道も出ている。 いずれも今後の展開などの詳細は未定ではあるものの、動向を温かく見守っていきたいものである。 記事一覧へ 前の記事へ